「旅人は、札幌について何も知らないよ。」
先日、1人の外国人ゲストが僕に言った。
彼はアメリカのニューヨーク、ブルックリン出身、世界30カ国を旅し、今年は3ヶ月かけて日本を徒歩で縦断した屈強な23歳の若者。
彼は札幌について「日本の他の地方都市に比べてリラックスできる」と答えた。
一方で、「他の旅人と札幌について話しをしても旅人は札幌について何も知らない」と僕に言った。
確かに僕らのゲストハウスに泊まりに来る外国人ゲストは、冬はびっくりするぐらい降る札幌の「雪」を、夏は思わず写真を撮ってしまう富良野の「花畑」を見に来るゲストもいるけど、日本に長期滞在している外国人ゲスト(欧米系が多い)ほど、札幌については何も知らない。
その理由は、長期滞在している外国人ゲストのユニークな移動手段、事前の情報収集が挙げられる。
彼らは、JRパス(日本全国のJRが数週間乗り放題のチケット)を片手に縦横無尽に日本国内を移動し、各地方都市を拠点に、まだ見ぬ「景色」、出会ったことのない「人」に出会う旅を自由に楽しんでいる。1日で東京から札幌まで8時間以上かけて列車でやってくるゲストも多い。
中には、事前にしっかりと情報を調べてくる旅人もいるが、ほとんどは事前情報を調べずに現地で情報収集をする。
事前に計画されたツアーと比べると行き当たりばったりな旅に見えるが、何が起こるか分からないワクワク感も旅の醍醐味なのだ。
彼はこう続けた、「でもこれはチャンスなんだよ!ゲストがスタッフに一番良く聞く質問はなんだ?どこで飯を食べればいいか?だろ。そう聞かれた君たちは好きな店を紹介できるわけだ。ゲストは必ずそこの店に行く。なぜなら何も知らないからだよ。札幌について何も知らないということは、札幌はこういう街だと提案できるチャンスがあるということなんじゃないか?」と僕に言った。
この視点は面白かった。
どういう宿にしていけばいいのか、どうしたらもっといい宿になるのかと自分たちで考えても視野は狭くなるばかり。デザインをどうしようとか、機能をどうしようとか、どうしても他のゲストハウスと比べがちだ。でも彼が言っていた札幌という「街」全体からゲストハウスを考えるという視点は、本来の「宿」のあるべき姿を僕らに教えてくれた。
今なにを考え、これからどうしていけばいいのか。
その答えは、僕らのゲストハウスに宿泊しているゲストにあった。
ゲストとのちょっとした会話の中での気づきや発見。
これこそがゲストハウスで働くことが面白い理由だ。
こんな体験ができるのもゲストハウスが「安さ」以外に他の宿泊施設(ホテルや旅館)にはない「交流」という価値を大切にしているからだ。宿泊しているゲストどうしの交流もあれば、僕らスタッフとゲストとの交流も每日行われている。
交流というと使い古された感じがするけど、自分次第で長い時間をかけてゲストと「対話」することができる。話が盛り上がり、朝方まで話し込むこともめずらしいことではない。一見すると働いているのか、遊んでいるのか分からない時間(!)、そこに日本という国を考えるきっかけや、今回のように自分が住んでいる街(札幌)を考えるきっかけ、そして人生の話になれば、自分自身の人生を振り返るきっかけだってゲストハウスにはある。
ぜひ、ゲストハウスに宿泊したことのない人は僕のようにハッ!となる体験をしてほしい。
まだ見ぬ世界、まだ知らない自分がゲストハウスにはあるはずだ。
2015年12月26日 木村高志